ライフワーク
ポートフォリオ

柴田英寿 2001.08.11
経営の理論と実践
筆者の略歴 等へ

本ページからの転載、引用は自由です。ただし、筆者の著作権を明示してください。 2001, Copy rights (c) Hidetoshi shibata all reserved

  インターネットが普及して個人が、コミュニケーションにかかるコストが飛躍的に小さくなりました。これは知識を高める上では画期的なことです。今までのように組織に依存しなくても個人が膨大な情報を集めたり、発信したりできるからです。

 こうした状況では組織のあり方も、個人のあり方も変わってきます。こうした変化は経営にも大きな影響を与えます。

 個人が組織に依存しない時代の組織と個人のあり方としてライフワークポートフォリオという考え方を提案します。

 ●企業という幻想

 これまで、経営において、個人は「労働力・人材」ととらえられて、基本的に企業の側から管理されてきました。これが、インターネットの普及によって大きく変わろうとしています。変化の根源は個人が組織に依存しなくても生きていけるようになってきたところにあります。

 バブル経済のころ、あちこちで異業種交流会が開かれていました。このときの異業種交流会の多くは人脈を広げることを目的にしていました。インターネットの普及とともに、メーリングリストが活発になり、単に人脈を広げるための交流ではなく、「知」を求めての交流がブームになっています。

 メールのやりとりによる交流だけではありません。これまでの典型的なサラリーマン像は、日中は組織の論理にあらがわずに過ごし、夜な夜な職場の同僚や同期の桜とアルコールの力を借りてストレスを発散するというものでした。最近では、身銭を切ってビジネススクールに通う人が増えています。会社の仲間と組織の愚痴を言い合うより、ケーススタディーの議論を通じて知的な興奮を味わうほうがよほど楽しいことに気がついた人が増えているということです。

 実際、知的なメーリングリストや勉強会に参加すると、組織の改革に前向きに取り組んでいる人たちに出会うことがしばしばです。そこに参加することで、同僚や同期の連中と愚痴を言い合うよりはよほど知的な充実感を味わうことができ、また、自分自身もスキルアップすることができます。

 ●リーダッシップ開発 〜自分で組織を作る〜

 多くの日本の企業や組織では、変化に対してネガティブな層が大勢を占め、横並びと前例主義が蔓延しています。その結果、意志決定は遅くなり、やる気にあふれた、特に若い世代の意欲をそぐくことになっています。

 こうした風土の中ではとてもリーダーシップは開発できません。一方で、官僚型の組織を改革する、あるいは組織を官僚型化させないためにはリーダーシップが欠かせません。

 リーダーシップはセミナーに参加したり専門書を読んだりして開発できるたぐいのものではありません。リーダーシップは日々実践することでしか開発できないものだからです。日本の組織に多い年功序列型の組織運営では、早くても40代、多くの場合は50代にならないと責任ある職責を負うことができません。しかし、それまで20年、30年、重い職責を経験せずに横並びと前例主義で過ごしてきた人材が、突然、強力なリーダーシップを発揮して組織を改革していくということは考えにくいことです。

 少子化と縮小するマーケットを考えると企業が高度成長期のように規模を拡大し続け、ポストが潤沢に用意されるということはあり得ません。こうした中、リーダーシップの開発は企業組織の外で行うしかありません。たとえば、メーリングリストを使って勉強会を運営すること、NPO団体の責任者になること、などが考えられます。常に、どこかの組織でリーダーであることがリーダーシップを開発する唯一にして最良の方法なのです。

 ●ライフワーク・ポートフォリオ

 企業戦略でいえば多角経営、人材のタイプでいえばマルチ人間という複数の目的を同時にこなそうとする行動には否定的な評価が下ります。ひとつのこともまともにできないのに、たくさんのことをこなそうとしてもどれも失敗に終わるだろうという視点による評価です。

 確かに、なんのつながりもない株式や事業をたくさん持っていても意味はありません。しかし、それぞれに相乗効果がある場合は、まとめて持っていることで価値が生まれます。これは、個人の人生にも当てはまります。企業人として、あるいは事業家として成功するためにも、本職以外にポストを持ち、視野を広げたり、知識を広げたりすることには価値があります。

 先程述べたリーダーシップの開発についてもポートフォリオの考え方が当てはまります。社外の勉強会やNPOで若くして組織のトップを経験することでリーダーシップが開発されます。どんな組織であっても組織を維持し発展させていくには様々な悩みが伴います。その悩みの解決に苦労することでリーダーシップが開発されるのです。開発されたリーダーシップは本業の組織においても必ず役に立ちます。

 また、ライフワーク・ポートフォリオという考え方は、必ずしもある時点でいろいろなことに取り組むことだけを意味するものではありません。例えば、大学でライフサイエンスを専攻した人が、製薬企業で研究し、数年後にビジネススクールに通い、卒業後、バイオベンチャー企業を起こすといった、時間差のあるポートフォリオも考えておく必要があります。米国ではこうしたことは決して珍しくありません。

 ポートフォリオといっても無闇にたくさんのことをやるのではなく、それぞれに相乗効果があることを行う発想であれば、ライフワークをポートフォリオとしてとらえることにも意味があるということです。

 ●人材を管理する時代ではない

 リーダーシップや問題解決力などさまざまなスキルを開発する教育プログラムを用意しようとしている企業がかなりあります。しかし、本質的に、スキルは当事者の側にモチベーションがなくては磨かれません。

 一方で、個人が企業の枠を越えて活躍することが当たり前の時代になっています。日本IBMでは兼業禁止規定を廃止しているほどです。社外で通用するスキルを持っていなければマーケットでも当然相手にされないからです。

 会社が社員のスキルを開発する時代ではなく、個人がのびのびと自分のスキルを開発していく時代になっているのです。この違いに気づかない企業は、従来通りのお仕着せの人材開発を進めて、教育投資の効果が上がらないことを嘆き続けることになるでしょう。

 インターネットがコミュニケーションにかかるコストを飛躍的に低減して、企業の組織力に頼らなくても個人が才能を開花できる時代がきています。従来の単なる「囲い込み」による人材確保では、真のタレントを得ることはできません。経営にもこうした流れをふまえた発想の転換が求められています。

以下参考文献およびホームページ

Just a moment!