リーダーシップ管理

リーダーシップ・トレーニングの歴史

Jay Conger氏は著書「Learning to Lead」(Jossey−Bass,1992)の中で,リーダーシップ・トレーニングの歴史と類型について述べています。氏によれば:

近代的なリーダーシップのトレーニングは1881のペンシルバニア大学や1900年のダートマス大学,1908年のハーバード大学でのビジネススクールの開講とともに始まっています。

1960年代からは,環境適応型のリーダーシップ開発プログラムがしばらくの間主流になりました。

環境適応型のリーダーシップ・トレーニングでは,いくつかの典型的な経営環境において,考えうるいくつかのリーダーの行動を自分の好みと比較して,自分のリーダーシップのスタイルを認識するというものです。

さらに,1980年代には,ヴィジョンやモチベーションをコントローすることがリーダーの重要な役割であるする,心理面に重点を置いたリーダーシップ論が台頭しました。

また,1980年代にはリーバースに代表されるように,経営幹部だけでなく,全社員に対してリーダーシップのトレーニングを奨励するという企業が登場しました。

リーダーシップトレーニングの構成要素

前述のJay Conger氏は,リーダーシップトレーニングに共通する要素として以下の4点を挙げています。

  • 自分に内在する願望やヴィジョンを認識する
  • リーダーシップについて概念的に理解する
  • 自分分析や回りの人からの評価から自分自身を認識し,自分の長所を伸ばし,短所を改善する
  • リーダーシップを技術の集合体ととらえて,必要な技術を習得する(リーダーに必要になる技術には認識的あるいは心理的なものが多くトーレーニングによって修得することがきわめて難しいと考えられています)

さらに,氏は,数あるリーダーシップトレーニングのプログラムは,この4点のうちのどれかに焦点を当てたものになっていることが多いとしています。

氏はその焦点の当てかたが,プログラムの主催者の経験や個性,信条に影響されていると指摘しています。

 

リーダーシップの概念的理解

リーダーシップの概念については様々な提言がなされており,ここでは,ニューヨーク州立大学のBernard M. Bass教授の網羅的な研究成果を紹介させていただきます。(The Free Press,Bass & Stodgill's Hnadbook of leadership:Theory,Research,and Application,1974,1981,1990)

リーダーの起源と歴史

古代文明の伝説や神話には必ず,先祖の英雄を語るストーリーが含まれており,リーダーを創造することが文明社会の必須要件ではないかという仮説には信憑性があります。

古代エジプトでは紀元前3000年頃にすでにリーダ−,と従属者を意味する象形文字が創造され,リーダーの概念的な性質(リーダーシップに当たる)をさす別の象形文字も作られていました。

ギリシャ神話には,

  • 正義と人間的決断
  • 英知と狡猾さ
  • 賢さとずるさ
  • 巧みな弁舌と実行力

等が対比的に語られ,リーダーの理想像と現実像が象徴的に示されています。

プラトンは哲人政治を唱え,生まれ持った才能,若いうちの体験,軍事的訓練,哲学的思考経験をへて50歳頃に政治的リーダーとして完成されると述べました。

16世紀にMachivvelliは徹底的に現実主義にのリーダー論を提示しました。

20世紀になって,オーストラリアの先住民族や,太平洋上のフィジー諸島,ニューギニア諸島あるいはアフリカのコンゴの民族にも古くからリーダーとリーダーシップに関する行動及び儀礼があることが確認され,リーダーの存在は人類史に共通のものであるという考え方が一般的になりました。

リーダ−シップの言語的起源

Oxford English Dictionaryの注釈によればリーダーという単語は14世紀に確立していたが,リーダーを概念的に唱えるリーダーシップは19世紀中頃になってはじめて広く用いられるようになったとのことです。

リーダーシップの定義

リーダーシップに関して,広く認められている定義は存在しません。数々の定義がなされていますが,どれも抽象性が高くリーダーシップのある側面に焦点を当てた場合の定義になりがちのようです。

リーダーシップ理解のための基本概念

リーダーシップに関しては様々な研究がなされており,様々な提言が行われています。ここでは,代表的なリーダーシップに関する基本概念を前述のBernard M. Bass教授の論文から拾い上げて紹介させていただきます。

  • リーダーは集団において,集団の構造や雰囲気,ゴール,信条,集団行動等を決める役割を担う
  • リーダーは,他の集団構成員に比べて,他人を心理的に刺激して集団行動を喚起するのに長けている
  • リーダーは集団内の軋轢を解消し協調的な行動を促進するのに長けている
  • リーダーは他の集団構成員に対して強い影響力を持つ人物である
  • リーダーは集団を統制している人物である
  • リーダーは集団内において説得力に長けている人物である
  • リーダーは組織内の政治的構造によって決まる
  • リーダーは集団の目的を最も効率的に実現するためのツールである
  • リーダーは集団内で最も,各個人の個性を引き出せる人物である
  • リーダーは集団内においる一つの役割である。

 

リーダーシップ理解のためのモデル

Stacy Jackson教授のリーダーシップIcebergモデルをご紹介します。(Stacy Jackson教授はWashington Universityにて「リーダーシップによる競争優位」の講座を担当しています。)

教授の説は,個人の個性を最も基本的な要素と考え,経験によって修得可能な技術や知識の土台となるものとしています。さらに個性や技術,知識の影響のもと,リーダーの行動が決まるとしています。

このモデルは,これまでの,リーダーシップに関する研究をリーダーの個性に関するもの,リーダーの技術や知識に関するもの,さらにリーダーの行動に関するもの,に分類して整理することができ,リーダーシップ論を理解するために大変有効です。目に見えるのはリーダーの行動だけであるが,行動のもとには知識や技術,個性が存在しているという意味で氷山をたとえに使っています。)

リ−ダーに共通する個性

Shelley KirkpatrickとEdwin LockeはAcademy of Management Executive,1991 Vol.5 No.2に掲載された論文"Leadership:do traits matter?"の中でリーダーに共通する個性を以下の6つに分類して説明しています。

  • 情熱
  • リーダーになりたいという動機
  • 正直さ信頼性
  • 自分に対する自信
  • 理解力
  • 事業に関する知識

情熱

情熱には,達成意欲,野心,スタミナ,イニシアチブ等が含まれます。

リーダーになりたいという動機

リーダーにないたいという動機には,リーダーになること自体を目的とする場合と,リーダーになってある目的を組織的に達成したいという場合の2つに分類されます。

信頼性:正直さと一貫性

組織内で信用をえるには正直でなくてはなりません。正直であり,主張,行動に一貫性があることで信頼性が高まります。

自分に対する自信

リーダーとして他の組織構成員を説得し,不測の事態を乗り越えて行くには,自分に対する自信が欠かせません。

理解力

リーダーは高い理解力(思考力)によって,情報を分析し意志決定を迅速に行わなくてはなりません。

事業に関する知識

事業や業界に関する知識を持っていることはビジネスリーダーにとって欠かせないものです。(ここで言う知識は,経験と密接に結びついていると考えられます。体に染み着いた知識ととらえると知識もリーダーの個性の一つと考えられると思います)

Warren Bennis氏は著書「On Being A Leader」(1989,Addison Wesley)の中でリーダーの必要条件という見方でリーダーの個性をより広くとらえて説明しています。氏は以下の5つを挙げています。

  • ヴィジョンを持っていること
  • 情熱的であること
  • 高い人間性を持っていこと
  • 信頼を得ていること
  • 好奇心旺盛で挑戦思考であること

リーダーに共通する技術及び知識

技術や知識として考えたときマネージャーとリーダーの技術/知識を区別するのは難しくなります。(リーダーにだけ固有の技術があるとすれば,すべてのマネージャーも,その技術の習得を目指してリーダーになろうとすると考えられます)。

ここでは,Personnel Decisionsの編纂によるSuccessful Managers's Handbook(Personnel Decision Inernational,1996)が整理したマネージャー及びリーダーに必要となる技術及び知識を紹介させていただきます。

  • 組織管理技術
  • コミュニケーション技術
  • 対人関係技術
  • リーダーシップ技術
  • 動機付け技術
  • 組織の一般業務に関する知識
  • 組織の戦略的運営に関する知識
  • 自己管理技術
  • 思考技術

リーダーに共通する行動

リーダーの行動に関しては,これまで様々な研究がなされてきました。そのどれもが,統計的な裏付けについては必ずしも十分ではありません。しかし,定性的なアンケート調査から,少なくとも,多くの先進国の管理職やビジネスリーダーが,共通したリーダーの行動についてのイメージを持っていることは明らかになっているととらえてよいようです。

ここでは,James KouzesとBarry Posnerの著書,The Leadership Challenge(Jossey Bass,1995)が提示している5つのリーダーの典型的行動を紹介させていただきます。

現状の打破に挑戦する

  • 機会を求め,現状に立ち向かう
  • 危険を承知で試行錯誤を行い成功と失敗から学ぶ

ヴィジョンの共有化を促進する

  • 将来像を描く
  • 目的を共有できるように構成員をヴィジョンで魅了する

他の人の行動を助ける

  • 共同で達成できる目標と組織内での相互信頼を醸成し協調的雰囲気を作り出す
  • 影響力と情報を共有化し構成員の行動力を高める

自ら模範を示す

  • 判断の仕方や行動について例を示す
  • ゴールまでの道筋を細かく分割し一歩一歩達成しやすくする。

心に訴えかける

  • 業績と対価の関係を明確にし,組織への貢献を公にする
  • 目標の達成を祝福する

 

リーダーシップ4フレームモデル

BolmanとDealtは,著書,Reframing Organization(1997,Jossey-Bass)の中でリーダーシップの4つの類型を示しています。彼らの類型は以下の4つです。

  • 組織的リーダーシップ
  • 教育的リーダーシップ
  • 政治的リーダーシップ
  • 象徴的リーダーシップ

組織的リーダーシップ

公の組織構造に基づいて組織を統率しようとするタイプが組織的リーダーシップです。軍隊の指揮官がこのタイプの典型例です。

教育型リーダーシップ

組織構成員を動機づけて,彼らを人間的に成長させることで組織を運営していこうとするタイプが教育的リーダーシップです。1980年代以降急速に評価を高めているタイプのリーダーシップスタイルです。

政治的リーダーシップ

交渉や影響力の行使によって組織の統制を行っていこうとするタイプが政治的リーダーシップです。伝統的な組織運営のスタイルといえます。大規模組織において多く見られるタイプです。

象徴的リーダーシップ

忠誠心や審美的信仰をもとにカリスマ性によって組織を統制していこうとするタイプが象徴的リーダーシップです。

補足

なぜ,この4つのタイプのみでリーダーシップの類型を言い尽くしていると言えるのかについてBolmanとDealtは述べていません。このホームページでは独自に以下のような仮説を述べさせていただきたいと考えます。

象徴的なリーダーシップは多くの古代国家,未開民族に見られる共通のリーダーシップスタイルである。さらに,国家の形成とともに政治的なリーダーシップが登場してきた。プラトンが述べる哲人政治家の考え方は政治的リーダーシップの典型と考えられる。さらに中世,近代と進むにつれて,主に軍隊に関する研究の成果として組織的なリーダーシップが発展した。最後に,20世紀になり,マクレガーのX−Y理論やトム・ピータースの著作の影響等により教育的リーダーシップが広く認知されるようになった。